221番道路

『しんかいのウロコ』を持たせて通信交換

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 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。

 あれは中学生の頃だっただろうか、古典の授業でこの一文から始まる『平家物語』の冒頭の段落を覚えさせられた。学生時代に暗記した様々なもののうち、特定の一部はなぜかずっと記憶の端にこびりついていて、何かのきっかけがあると度々思い出す。華々しく活躍していた平家が滅亡していく様を描いた本作品の冒頭は確か、この世に変化しないものなどなく、どれだけ栄えていたものでもいずれはその勢いを失うといったことを表す内容だったはずだ。

 

 僕が最初に好きになったアイドルが出演する、恋愛系のウェブバラエティー番組の放送が始まった。あまり詳しくは知らないのだが、役を演じるというよりも、本人として仮想結婚をする様子を描くという、いわゆるフィクションの線引きを曖昧にしたコンテンツらしい。ともなると、いわゆるガチ恋をしていた場合には、ただの恋愛ドラマよりも"効く"内容になることが想像されるが、さすがに恋愛シーンにどうこう言いたくなるような推し方はもうしていないし、その熱量のレベルからは降りてしまっているというのが正直なところだ。

 ステージの上で歌って踊っていた彼女が、女優に転身し、少ししてYouTubeを始め、今月からはウェブの恋愛番組に出演する。立っている場所が違えど好きだとは思い続けられるし、そもそも他人の居場所に口を出すつもりも一切ない。極端な話、彼女が幸せに過ごせているならそれで良くて、逆に僕だって気の向くままに好きな形で応援すればいい。だからこれは完全にこちら側の問題なのだが、そうわかっているものの、握手をしていたはずの僕の手が届きにくい場所、伸ばすことを躊躇う場所に彼女が遠ざかっていくという感覚を徐々に抱かされる。そうやってかつての距離を維持できず、変化を止めることができない様が、僕にふと平家物語を思い出させるのだ。

 思えば、大々的に韓国で再デビューした彼女も、どこか出鼻を挫かれてしまった感が否めない。一時的な話であるとは思うのだが、彼女も人生にとっての頂点から少しばかり遠ざかったように思えて、今でも応援したいという気持ちではいるものの、見ていてなんだか心苦しくなる日もある。なんにせよ、疑う余地もなくいちばん好きで、心の底から自分の人生を支えてくれていると思っていたあの時間を、そのまま維持することはできなかった。

 

 今夜は『MIssing U』を聴こう。